水戸地方裁判所 平成9年(行ウ)23号 判決 1999年3月24日
原告
松田忠夫(X)
被告
茨城県知事(Y) 橋本昌
右指定代理人
前澤功
同
小田切敏夫
同
栗原久
同
飯田信一
同
五島勇
同
藤沼正彦
同
洞内四郎
同
長谷川淳
同
佐藤要
同
八重樫智之
同
矢口巌
同
矢實稔
理由
一 請求原因1の事実については、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで以下、本件各不許可処分の適法性につき検討する。
1 被告が本件各不許可処分の際に、通達である農地転用許可基準を根拠としたこと自体の違法性(請求原因2(一)(三))について
まず、原告は、本件各不許可処分は、農林事務次官の通達である農地転用許可基準第二章第二節第一の規定を根拠としているが、これは一般国民を拘束できないはずの通達によって原告に不利益を課すものであり、また、行政官僚にすぎない農林事務次官が、通達で農地転用許可の要件を法に付加することは、立法機関が定めた権限の分配に関する規定に反するとして、被告の本件各不許可処分は違法であると主張する。
確かに、通達は、上級行政機関が、各下級行政機関による法解釈や裁量判断を統一させる目的で、その指揮権に基づいて各下級行政機関に対して発する命令であるから、法による委任がない限り、行政組織の外部にいる国民を直接に拘束する根拠とはなり得ない。そして、この理は、本件で問題とされている農地転用許可基準(これが法による委任がないことについては当事者間に争いがない。)についてもそのまま妥当するものである。従って、農地の転用及び転用のための権利設定(以下「転用等」という。)において国民を拘束しうるのは、農地転用許可基準ではなく、農地法四条、五条の各規定それ自体であるといわざるを得ない。
しかし、だからといって、農地転用等の許可申請に対する不許可処分の理由を農地転用許可基準の規定を引用しながら記載することが当然に禁止されることにはならないのであり、農地転用許可基準の規定を引用して申請を不許可としても、その規定が農地法四条、五条の趣旨目的に合致している限り、その不許可は農地法四条、五条に基づいてなされたものと解すべきであり、本件各不許可処分の理由として記載されている農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定も、右に述べたような趣旨のものと解される。そして、農地法四条、五条の規定は、優良農地を確保し農業生産力を維持して農業経営の安定を図りつつ、国民経済の発展及び国民生活の安定のために国土の合理的な利用を図るという観点から、農業及び農業以外の土地利用関係を調整することを目的としているところ、農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定は、申請目的の実現について法令等による許認可等を要する場合に、当該許認可等がなされる見込みがないにもかかわらず農地転用を許可したのでは、結局転用された土地が何ら利用されず遊休化してしまい、国民経済上無駄であることから、「当該許認可等がなされる見込みがあること」を農地転用許可に際しての検討事項として、そのような事態を防ごうとしたものであり、これはまさに右の農地法四条、五条の趣旨目的に沿ったものといえる。とすると、本件各不許可処分は、農地法四条及び五条に基づいてなされたものであって、農地転用許可基準によって、不許可とされたものであるということはできない。また、前述の農地転用許可基準の性質に照らせば、農地転用許可基準を制定することが農林事務次官の権限に属するものであることは明らかであるから、行政組織法上の権限分配に反するものではない。
以上から、この点に関する原告の前記主張には理由がない。
2 農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定の違法性(請求原因2(二))について
原告は、農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定は、農地法の趣旨目的と全く関係ない要件を付加するものであり違法である、と主張する。
しかし、右に述べたように右規定は農地法四条、五条の趣旨目的に適合したものというべきであり、この点に関する原告の前記主張には理由がない。
3 被告が村要綱の規定を理由に本件各不許可処分をしたことの違法性(請求原因2(四)(2)について
原告は、この点につき、要綱は、法律上の強制力のない事実上の協力要請あるいは行政指導の指針であるから、農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定に言うところの「法令等」には該当せず、また、そのような要綱の規定を理由に何人も不利益を受けるいわれはないとして、要綱による桜川村長の不同意を理由とする被告の本件各不許可処分は違法であると主張する。
しかし、前述のように、農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定は、農地法四条、五条の前記趣旨目的の下、転用された土地が利用されず遊休化してしまうことを防ぐべく、申請目的の実現について法令等による許認可等が要求される事案について、それがなされる見込みがあることを許可処分の要件としたものであるが、村要綱に基づく許認可がなされないことによっても事実上転用土地が利用できず、土地が遊休化しでしまうおそれがあるのであるから、村要綱も同規定の「法令等」に該当すると解するのが相当である。とすると、たとえ要綱が法律上強制力のないものであったとしても、農地法四条、五条の許可を判断する際の判断要素として考慮することは許されることになるから、それにより原告が不利益を被ったとしても、そこには原告が主張するような違法はない。
以上から、この点に関する原告の前記主張にも理由がない。
4 原告の道路法二四条、三二条による許可申請を却下とした桜川村長の処分及び原告の本件条例による許可申請を却下した桜川村長の処分の各違法性(請求原因2(四)(1))、村要綱第四(2)の規定自体の違法性(同2(五))並びに本件における桜川村長の不同意の違法性(同2(六))について
原告は、被告の本件各不許可処分は、村要綱に基づく村長の不同意と、それを理由とする道路法二四条、三二条に基づく許可申請等の却下をその根拠としており、行政処分取消訴訟の訴訟物は処分の違法一般であるから、本件においてこれら村長の処分及び村要綱の規定自体の違法性がいずれも審理の対象となるとして、それぞれの点につき主張を展開している。
しかし、前記農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定の趣旨からすれば、同規定においては「許認可等」がなされる見込み自体が要件として要求されており、許認可権者のなした判断が適法であることまで要求されていないものと解すべきである。
従って、本件においては、道路法二四条、三二条に基づく許可申請に対する許可、本件条例に基づく許可申請に対する許可及び村要綱に基づく同意がなされる見込みについて審理すれば足り、桜川村長のなしたこれら処分等の適法性については本件審理の対象にはならないものといわなければならない。そして、本件においては、原告による道路法二四条、三二条に基づく許可申請及び本件条例に基づく許可申請がいずれも不許可とされたこと、村要綱に基づく桜川村長の同意が存在しないことは、いずれも当事者間に争いがないから、農地転用許可基準第二章第二節第一の二の規定で言うところの「許認可等の見込み」がないことは明白であって、これを根拠としてなした被告の本件各不許可処分は適法である。
三 結語
以上の事実によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木航兒 裁判官 中野信也 植村幹男)